「事業会社で研究はできない」は本当か?実データ×反実仮想でJSAI2026に挑んだ話

はじめに

こんにちは。レバレジーズ株式会社で研究員をしている永安です。普段は人材領域の推薦システムやLLMによる自動評価に関する研究開発に取り組んでいます。 2026年6月8日〜12日にGメッセ群馬で開催された、第40回人工知能学会全国大会(JSAI2026)に参加し、「人材領域における反実仮想機械学習を用いた相互推薦システムの説明手法」というテーマで発表してきました。 この記事では、JSAI2026全体の雰囲気と、私が個人的に面白いと感じた研究のトレンドを紹介します。事業会社の研究員の目線から見たJSAIの空気感が、これから参加を考えている方に少しでも伝われば嬉しいです。

ブースの様子

JSAI2026の全体の雰囲気

JSAI(人工知能学会全国大会)は、国内のAI研究者が一堂に会する最大級の学会です。今年は第40回・40周年の節目の大会で、Gメッセ群馬を会場に5日間のハイブリッド開催。前回のJSAI2025(大阪)が約5,000名規模だったこともあり、今年も国内最大級の盛り上がりでした。 参加して最初に感じたのは、企業のプレゼンスの大きさです。アカデミアの発表だけでなく、インダストリアルセッションでの企業発表や、展示ホールに並ぶ企業ブースが目を引きました。ブースでは各社のデータ活用やプロダクトの裏側が紹介されていて、休憩時間やレセプションでは企業関係者同士の交流もかなり活発でした。 個人的に大きかったのは、自分が研究している推薦(レコメンド)について、実際に業務で使っている方や、アカデミアで研究している方と密に話す機会を多く持てたことです。昨年参加したときは、チームが立ち上がったばかりで外に出せる成果がまだなく、話を聞いて回るのが中心でした。それが今年は、自分たちの取り組みとして話せるものを持って臨めたぶん、レコメンドを開発しているエンジニア、研究者と、一歩踏み込んだやり取りができたように思います。同じ推薦という土俵でも、事業側の制約や評価のリアルと、研究側の理論的な関心とでは見えている景色が違っていて、ブースや発表後の立ち話から得られる視点がとても多かったです。発表できるネタを持っていることが、こうした密度の高い会話の入り口になるのだと実感しました。 今年の大会全体を通して前面に出ていたのが、AIエージェントとPhysical AIです。LLMを核としたエージェント関連の発表・議論はあちこちで見られましたし、Physical AI(現実世界で身体を持って動くAI)も、スポンサー展示やチュートリアル講演を含めて大きな存在感を放っていました。

発表紹介:人材推薦の「希望の求人に行くには何を習得すると良いか?」に反実仮想で答える

人材領域の推薦は、「求職者→企業」と「企業→求職者」の双方向の好みを考える相互推薦(Reciprocal Recommendation)で、両者の嗜好の間には暗黙のトレードオフがあります。今回提案したのは、このトレードオフに説明性の観点から踏み込む反実仮想的な手法です。 コアは、「求職者自身は気に入っているのに、企業側のスコアが低くて推薦されない求人」に対して、求職者側のスコアを下げないという制約のもとで、企業側のスコアを押し上げるには何を変えればよいかを探索するという点にあります。これにより「あと何があれば、この求人に届いたのか」を提示でき、相互推薦のトレードオフを部分的に可視化できます。 このフレームワークで推薦結果を説明することにより、現時点でのユーザーに対する推薦だけでなく、ユーザーの将来のキャリアへのデータドリブンな助言をサービスに組み込むことが期待できます。

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気になった発表

大規模言語モデルエージェント間の社会的学習における文脈依存的パラメータ調整と相転移的振る舞い(堀部和也ほか/理化学研究所

環境が途中で変化する多腕バンディット課題をLLMエージェントの集団に適用し、各モデルの挙動に強化学習モデル(学習率・逆温度・社会的重み・同調指数など)を階層ベイズで当てはめた研究です。同質集団では、GPT-5.2は早期に探索をやめて多数派に同調し環境変化に固着する一方、Claude-Sonnet-4.5は探索を維持し、集団が大きいほど適応が良くなりました。さらに両者を混ぜると、GPT:Claudeが3:2→2:3になる一点で集団の適応可否がガラッと切り替わる、相転移のような閾値効果が現れます。Claudeが過半数になるとその探索が新しい社会的シグナルとなり、同調傾向の強いGPTが一斉に追従する、というモデルごとの傾向の違いが見られました。

感想

エージェントを使った調査ではLLMのコストが無視できず「どのモデルをどう分担させるか」が実務課題になりつつあります。その一般化された問いを綺麗な実験設定で示していた点が非常に良かったです。

Top-k方策分解に基づくランキング方策の効率的なオフ方策学習(R-POD)(岸本廉・田中滉一ほか/東京工業大学・慶應義塾大学)

ログデータからランキング方策をオフ方策学習する問題で、従来は方策ベース(IPS)がランキング全体の重要度重みで分散が爆発し、回帰ベースは全ランキングの報酬推定が難しくバイアスが大きい、というジレンマがありました。R-PODは、ランキング方策を「上位k件を選ぶ第一段階方策」と「残りの下位を条件付きで選ぶ第二段階方策」に分解することでこれに対処します。第一段階は方策ベースの重要度重み付けを“ずっと小さいtop-kの行動空間”だけに適用して分散を大幅に抑え、第二段階はtop-kを条件とした残りの空間にのみ回帰を当ててバイアスを小さくする、という役割分担です。人工データ実験では、特にデータが少なく行動数が多い設定で、IPS-PGやDR-PGなどのベースラインを明確に上回りました。

感想

レコメンドではランキング全体を考慮することが重要で、上位と下位を分けてバイアスと分散を同時に抑えるという発想がとても綺麗でした。ランキングを考慮した最適化は自分の研究とも問題意識が重なり、特に学ぶところの多いポスターでした。

おまけ

ホテル予約が遅れた敗北者研究員3人はAirbnbで民泊しましたが、焼肉パーティーで勝ちました。

研究員の作った漢料理

We are hiring!

最後までお読みいただきありがとうございました。会期を通して、推薦に関わる実務家・研究者の方々と密に交流でき、自分の研究を見つめ直すうえでも大きな刺激になりました。 レバレジーズでは、レバテックキャリアをはじめとする実サービスの現場課題を起点に、まだ方法論が固まっていない領域へ新しい手法を提案するような研究に取り組んでいます。実データ・実サービスと地続きでありながら、今回のように学会発表まで踏み込めるのは、事業会社の研究としては恵まれた環境だと感じています。 推薦システムや機械学習を専門に、「実データへのインパクト」と「研究としての新規性」の両方を追いたいという方は、ぜひ一度カジュアルにお話しできれば嬉しいです。

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